概要 / Overview
【紹介】
2021年に日本との間でワインの関税が撤廃され、オーストラリア・ワインはリーズナブルな価格です。日本の凡そ20倍の国土を有し、多彩なブドウ品種が栽培されており、代表品種は「シラーズ」。スパイシーでタンニン豊富なシラーは「シラーズ」と現地で呼ばれ、多くはバロッサ・ヴァレーで栽培されている。輸出量が多く、世界各地で親しまれているオージーワイン。老舗ワイナリーのペンフォールズは国際的に評価が高いことで有名。
【プロフィール】
ブドウ栽培地域はニューサウスウェールズ州から西オーストラリア州の間。代表品種は「シラーズ」で温暖・寒冷地域によって様々なスタイルがある。人口2,400万の市場規模では国内消費に限界があり、輸出がワイン販売量の6割を占めている。オーストラリアのワイン生産量は世界第5位。品質の安定した「量産ブランドワイン」「ファインワイン」の生産国としてのイメージを築いてきた。
【歴史】
ニューサウスウェールズ州の初代総監だった英国海軍 Arthur Phillip 大使がシドニーにワイン用ブドウ樹を最初に持ち込んだのが1788年。その後、ブドウ栽培地が各地に拡大していく。1840年代には、バロッサ・バレーにドイツから宗教的迫害を逃れてきた人々が入植し、ワイン造りを始めた。
1990年代に「シラーズ」が質・量ともに同国を代表する品種として国内外で認識されるようになった。当時、カリフォルニアのジンファンデル、アルゼンチンのマルベックのような地域を特徴づける”独自品種”を見出そうとする世界的潮流に合致したのである。また、アロマを大切にする白ワイン造りでスクリュー栓を採用したことは分岐点。オーストラリアでは現在、設立間もない中小ワイナリーが多く、ナチュラル・ワインの造り手が登場している。
【食文化・ワインサービス】
香港がイギリスから中国に返還された1997年のタイミングでオーストラリアへの移民が急増した。食文化は様々な要素を取り入れて発展中。メルボルンは「グルメの都」と形容される。BYO (Bring Your Own / レストランへのワイン持ち込み ) はアルコール販売の免許を持たない飲食店がサービスの一環として始まったが、今では免許の有無を問わず国中に浸透している。
【主なブドウ品種】
白ブドウ生産量のTOP 3は、①シャルドネ、②ソーヴィニヨン・ブラン、③セミヨン、赤ブドウは①シラーズ、②カベルネ・ソーヴィニョン、③メルロ。
【地理的呼称 (Geographical Indication / GI)】
ヨーロッパの原産地呼称制度に類似した制度を1993年に導入。特定GI内で収穫された原料ブドウから造られたワインのみに当該GI名が使用されるよう、地名の利用を保護と表示の信ぴょう性を担保している。基準として、特定のGIで産出されたワインが85%以上使用されている場合に表示可能。GIの決定には、歴史、地質、気象条件、収穫時期、排水状況、水源、標高が考慮される。
【ワイン産地の特徴】
① 西オーストラリア州
同州のワイン生産量はオーストラリア全体の3%程度に過ぎないが、比較的高価格帯で品質が優れている。ブドウ栽培の中心は、マーガレット・リヴァーとグレート・サザンである。
「マーガレット・リヴァー」
パースから南へ約270km、インド洋に突き出た半島は地中海性気候で一年を通して温暖。サーフィンの名所として知られている。カベルネ・ソーヴィニョンとシャルドネの有力産地でワイナリー数は約200。その大半が “セラードア”(試飲直売所)を持ち、レストランを併設している。
「グレート・サザン」
ユーカリの森林を開拓して作られた産地。ブドウ生産量はマーガレット・リヴァーの3割程度。土壌は鉄分を多く含むコーヒー豆(通称;コーヒー・ロック)のような赤茶けた岩石で出来ている。ワインは赤白、品種問わず、ユーカリ由来のスパイシーさと骨格を持った土地の個性を色濃く反映している。
② 南オーストラリア州
オーストラリの生産量の大半を担う。世界で最も古いシラーズのブドウ樹が現存する地でもある。世界の有力産地から遠く離れていたことが功を奏し、北米やヨーロッパ、オーストラリア東部を襲ったフィロキセラから被害を免れることが出来た。
州都アデレードは行政・教育・研究機関などが位置する豪州ワイン産業の中心都市。南オーストラリア州の重要な産地はアデレード周辺の6産地(バロッサ・ヴァレー、イーデン・ヴァレー、アデレード・ヒルズ、クレア・ヴァレー、マクラーレン・ヴェール、ラングホーン・クリーク)とクナワラ。
「バロッサ・ヴァレー」
シラーズの首都と言われる産地。標高は250~350m程度と低く、シラーズが栽培面積の5割を占める。ワイナリー数は約150であり、ワイン産業の屋台骨を支える大手ワイナリーが醸造設備を構える。100年以上の古樹が豊富。イーデン・ヴァレーとは “バロッサ・レンジ” という断崖で隔てられている。
「イーデン・ヴァレー」
シラーズとリースリングの主要な産地で標高400~550m程度。水分が乏しいエリアで、灌漑をしようにも水の供給源を確保するのが難しく、新規参入のハードルが高い。赤白の栽培比率はほぼ半々。標高が高く、風の影響と岩がちな土壌のお陰で香り高い赤ワインを生む。リースリングの品質は高く、ライムの香味と長い熟成力が特徴。
「アデレード・ヒルズ」
標高400~600mで、南北に長く降雨量や日照量が場所によって大きく変化する地域。産地には、大小の様々な谷があり、その合間に小さなブドウ畑が散在する。地質は複雑であることから、多様なスタイルのワインを生み出している。ワイナリー数は約90でレストランを併設するところが多く、アデレードなど都市部から週末に訪問客が多数訪れる。造り手はこの産地を “ヒルズ” と呼び習わす。
「クレア・ヴァレー」
海から50km以上離れ、大陸性の気候、標高400~500mである。産地の65%が黒ブドウ、35%が白ブドウでシラーズとリースリングの重要な産地。石灰岩質の土壌が広く分布し、両品種ともその特徴がよく表れている。リースリングは産地によって味わいが異なることから、土壌・母岩の違いを突き止め、それを販売に生かそうとする生産者が多い。
「マクラーレン・ヴェール」
セントヴィンセント湾に近い平坦地にブドウ畑が多い。シラーズ、カベルネ・ソーヴィニョン、グルナッシュなど赤ワインの生産が大部分を占める。ワイナリー数は約110。
「ラングホーン・クリーク」
標高30m程度で、アレクサンドリア湖からの風が温度を下げる役割を担う。栽培は黒ブロウが8割を占め、シラーズとカベルネ・ソーヴィニョンが大半。黒ブドウを手頃な価格で大量に得られるエリアとして重要な産地。ワイナリー数は約80
「クナワラ」
豪州を代表するカベルネ・ソーヴィニョンの銘醸地。濃厚な甘美さを放ち、クロスグリ、プラム、レッド・チェリーやプルーンなどの味わいを持つ。独特の柔らかいミネラル感と清涼感がクナワラの特徴。海洋性気候のエリアで約30のワイナリーが存在する。海岸線から直線で60km程度の距離で、海の影響を受けている。有名産地であるにも関わらず、アデレードヒルズから離れており静かなワイン産地と言える。
③ ヴィクトリア州
中小規模生産者中心のワイン産地。他州のブドウ栽培は主に沿岸地域に限られているが、当州は全体が栽培に適している特徴を持つ。様々な気候・土壌に約400のワイナリーが存在し、ワイン造りは個性的で多様である。
「ヤラ・ヴァレー」
メルボルンから車で1時間程度(約60km)の距離で日帰りでワインツーリズムが楽しめる。ヴィクトリア州を代表する産地で赤ワイン用品種が3分の2を占める。ヤラ・ヴァレーは同州で最初にワイン用ブドウが植えられた地域でワイナリーは約140。主な品種はシャルドネ、ピノ・ノワール、シラーズ、カベルネ・ソーヴィニョン。モエ・シャンドン社「シャンドン・オーストラリア」は1980年代に設立され、瓶内二次発酵スパークリングワインの生産拠点を運営している。
「モーニントン・ペニンシュラ」
30社程度の小規模生産者で構成されている冷涼産地にも関わらず、タスマニアと並びピノ・ノワールの重要な産地として存在感が高まっている。外部審査員によるピノ・ノワール品評会 (Australian Pinot Noir Challenge) を開催中。
④ ニュー・サウス・ウェールズ州
オーストリアのワイン産業の起源は当地に由来する。ブドウ栽培は1790年代にシドニー周辺で始まった。その後、”ハンター・ヴァレー”に広がり、大手ワイナリーが拠点を置いたことから長らく重要なワイン産地として認識されてきた。しかし、有力ワイナリーは徐々に南オーストラリア州に軸足を移したため、以前のような存在感は薄れつつある。現在は、個性的な中小ワイナリーの存在感が増し、シドニーから日帰りで訪問出来るワイン産地として根強い人気を誇っている。
「ハンター」
代表品種は黒品種シラーズと白品種セミヨン。シラーズの古木が豊富で長期熟成に耐えることが出来る。味わいは他産地のワインと異なり、引き締まった土(Earthy)を感じさせる風味が特徴。セミヨンは栽培地区の気象条件(降雨を避け、酸度が下がる前に収穫)を活かした “ハンター・セミヨン” が親しまれている。セミヨンは元来、ボルドー・ソーテルヌ地区の赤口品種として有名だが、オーストラリアでは100%同品種を使い辛口に仕上げている。
⑤ タスマニア州
島の大きさは北海道の8割に当たる広さで、”世界自然遺産” “自然保護区” に指定されているエリアが多い。冷涼産地でありピノ・ノワールとシャルドネが有名。7つの重要産地があるものの、GI取得に至っておらず、ラベルに地域を表示する場合は “Tasmania” が表示される。土壌の多くは、”ジェラシック・ドレライト(ジュラ紀の粗粒玄武岩)” で形成されている。ライセストン近郊、テイマー川州域の “テイマー・ヴァレー” は生産量の5割を占める最大産地である。
⑤ クイーンズランド州
ゴールド・コーストの太陽、世界最大のサンゴ礁グレートバリアリーフやケアンズ、州都ブリスベン等、トロピカル・リゾートして有名。年間250日以上が晴天という亜熱帯気候も魅力のひとつ。同州は日常消費用ワインのブドウ栽培から始まり、今日では高級ワインのブドウ栽培において急成長を遂げている。
【酒精強化ワイン】
1960年代までは、酒精強化ワインの生産量がワイン全体の70%を占めていた。現在は酒精強化ワインの消費量は世界中で減少しており、オーストラリアも生産量は僅かになっている。主な生産地は、バロッサ・ヴァレー(南オーストラリア州)とラググレン(ヴィクトリア州)。シェリーは “アペラ / Apera”、ポートは “フォーティファイド / Fortified”、リキュール・トカイは “トパーク / Topaque”と呼ばれる。

