概要 / Overview
はじめに / Greetings
白ブドウはソーヴィニヨン・ブラン、黒ブドウはピノ・ノワールがメイン。中でも、ソーヴィニヨン・ブランは栽培面積の7割を誇り、ニュージーランド・ワインを世界に広めた品種。香りはグレープ・フルーツが特徴。最大のワイン産地 “マールボロ” の日照時間は長く、気温は冷涼という気象条件を有し、トロピカルフルーツの果実味と生き生きとした酸を持つワインを生み出している。
プロフィール / Profile

遅れてきた者の利点 / Latecomer Advantage
ニュージーランドのワインが世界的注目を集めるようになったのは、1980年代のソーヴィニヨン・ブラン、90年代のピノ・ノワールの登場と最近のこと。つまり、カリフォルニア、オーストラリア、チリ等の新世界産地に比べると遅咲きの存在である。また、代表品種をソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールに据えた点でも他の新興産地とは異なる。
遅れてきた者の利点は、ヨーロッパ、カリフォルニア、オーストラリアなど、他の産地が蓄積してきた知見、栽培・醸造技術のノウハウをそのまま活用できたことである。産地の選定から、苗木の入手、ワイナリー設備の建築方法、プロモーションに至るまで、一直線に産地形成することが出来た。
また、赤ワインでピノ・ノワールに焦点を定めたことは、品種の特性上、大きな資本による大量生産に馴染まず、世界中からピノ・ノワールでワインを造りたい個人を呼び寄せることになった。
独特なスタイルのソーヴィニヨン・ブランで輸出をスタートし、高価で売り出すことに成功した。異なる産地から生まれるピノ・ノワールもこれに続いたのである。
近年は、日本人オーナー醸造家の数が増え、日本の造り手の研修先ともなっており、間接的に 日本ワインの品質改善にも寄与している。
ソーヴィニヨン・ブランが生産量の7割 / Sauvignon Blanc exceeding 70% of Production
ニュージーランドは北島と南島から構成され、距離は1,600kmと日本のほぼ7割の大きさを持ちながら、人口は500万に満たない。主要な産業である牧羊は減少し続けているものの、約3,000万頭と人間よりも依然圧倒的に多い。
首都は北島のウェリントン。最大都市はオークランドで人口の3割が集中している。
ソーヴィニヨン・ブランが全生産量の7割を占め、大部分が南島マールボロ地区が担っている。ワイン生産者の大多数は小規模生産者である。
輸出が全販売量の8割以上 / Export more than 80% of Total Production
輸出のうち9割がソーヴィニヨン・ブランであり、如何に一品種への依存度が高いかが分かる。輸出先のトップ3はアメリカ、イギリス、オーストラリア。日本はセレクトしたワインを少量輸入している。アジア勢圏では、中国、香港、シンガポール向け販売が伸びている。
スクリューキャップの普及 / Screw Cap

現在、殆どのボトルワインにスクリュー栓が使用されている。世界的に広がっているワインへのスクリューキャップ使用に関し、ニュージーランドの普及率は世界一。スクリューキャップ・ワイン= 安物ワイン(ワインたるものコルク栓が正統である)というイメージが未だあるが、ブショネを抑え、コルク栓と遜色ない熟成をする等のメリットを持つ。
歴史 / History

黎明期 / Formative Years
世界のワイン市場にニュージーランド・ワインが登場するのは、ソーヴィニョン・ブランがプロモートされた1980年以降。そして、主要ワインの産地は北島から南島へと移っていった。それまでは、他品種による北島でのワイン造りにとどまり、国内消費主体の小さな産業だったのである。
ニュージーランドに初めてワイン用ブドウが植えられたのは1819年。英国国教会の宣教師サミュエル・マースデンがオーストリアのシドニーから持ち込み、その後ブドウ苗木が国内に普及した。
酒精強化からテーブルワインへ / Fortified to Table Wine
20世紀前半までのワイン造りは酒精強化ワインが主体。その後、ワイン生産者は産業の拡大とブドウ栽培に適した気候を求めて、キズボーン、ホークス・ベイなど北島へ移行していく。1970年代まで南島はその寒さからブドウが育つとは考えられていなかった。キズボーンでのワイン栽培が盛んになるタイミングは、酒精強化ワインからテーブルワイン生産へと軸足が移る時期と重なる。
1970年代後半 マールボロの誕生 / Birth of Marlborough in late 1970s
1970年代前半、当時の大手ワイン生産者はワイン生産拡大を念頭に新たな土地開発の必要に迫られていた。そこで、専門家はフランスやドイツの銘醸地を調べ、ニュージーランド各地の気候や土壌を分析・調査した。その結果、マーティンボローの気候がブルゴーニュと似ており、ワイン用ブドウ栽培に最適だと判断。しかし、栽培面積が狭いことから、南島マールボロを主軸に動き出した。
地元ではマールボロはブドウ栽培には寒すぎると考えられていた。最初は、ミュラー・トゥルガウやカベルネ・ソーヴィニヨンが植えられ、75年にソーヴィニヨン・ブランが栽培された。風が強く厳しい自然環境のため、栽培方法を確立するのに試行錯誤をくり返した。
ピノ・ノワール “ディジョン・クローン”の登場 / Dijon Clone of Pinot Noir
1980年代にもたらされたピノ・ノワールの苗木がディジョン・クローンだ。これは、比較的早く適熟し、房は手のひらに収まる大きさで密着している。アロマ華やかでエレガント、明るい赤いフルーツに持ち味があるのが特徴。
イベント開催 & 文化融合 / Event & Cultural Integration

ニュージーランドのピノ・ノワールが短期間に発展した背景に “ピノ・ノワール・コンファレンス” が挙げられる。海外のワイン・ジャーナリスト、批評家や生産者・研究者を招き、ニュージーランド各産地のピノ・ノワールがどのように発展・成長しているか等を議論したり、各産地のワインを試飲したりする、ワイン業界関係者が交流する一大イベント(3年に一回、ウェリントンで開催)。ジャーナリストに情報を世界に発信してもらう点でも、強力なマーケティング・ツールとなっている。
現在、ニュージーランド政府の重要政策として、先住民であるマオリ民族文化との融合を積極的に進めており、ワイン産業にもその影響は色濃く浮かびつつある。人間がテロワールを潜在化させた発見者という高位の立場ではなく、その一部としての存在であるというアイデンティティーを起点に、ワイン造りの独自性を持とうとしている。
気候風土 / Climate
特徴 / Features
ニュージーランドは日本列島のように南北に長く、各エリア毎に気候条件や栽培環境が異なる。
北島で亜熱帯な雰囲気とトロピカルな植生が見られるノースランドやオークランド、風が強く昼夜の寒暖差が激しいマーティンボロー、唯一の半大陸性気候で降雨量が少なく乾燥している南島セントラル・オタゴまで、多様な気候条件が見られる。
南東の中央を背骨のようにサザン・アルプス山脈が走っている。このアルプスが、主に西側からの悪天を遮る役割を果たす。他方、タスマン湾に近いネルソンは例外で、サザン・アルプスによる庇護が限定的で降雨量が多い。
主なブドウ品種 / Grape Variety

赤ワイン / Red Wine
ピノ・ノワールの生産量が最大である。ピノ・ノアールは暑さを苦手とするため栽培が難しいとされている品種。ニュージーランドのピノ・ノワールは本家ブルゴーニュ以外で成功させたことで有名。いちご、ラズベリー、さくらんぼ、プラムなどのフルーティーな香りが特徴で、シャンパン作りに使われている品種。
白ワイン / White Wine
ソーヴィニヨン・ブランが全生産量の7割を占めている。南東のマールボロはニュージーランドで最大のブドウ栽培面積を誇り、マールボロ全体の8割でソーヴィニヨン・ブランを栽培する。当エリアにおける昼夜の寒暖差の激しい気候が、ブドウ栽培にはぴったり。ハーブなどの香りとトロピカル・フルーツが合わさった香りが特徴。
ワイン法と品質分類 / Wine Law and Quality Classification
ガイドライン / Guideline
ラベール表記は “85%ルール” が適用されている。単一の品種名・収穫年・産地名を表記する場合は、それぞれ85%以上の品種・収穫年・産地のブドウを使用しなければならない。複数の品種・収穫年・産地を表示する場合は、使用比率の多い順に表示する。2017年に “地理的表示登録法 / Geographical Indication” が成立した。
ワイン産地と特徴 / Wine Region

ホークスベイ (北島) / Hawke’s Bay (North Island)
マールボロに次いで2番目の大きさ。ボルドー系赤品種とシラーの産地として重要な地位を占めている。メルロ、シラー、カベルネ・ソーヴィニョンの国内最大の栽培面積と生産量を誇り、3品種の生産量は国全体の8割を占める。
ホークワンに向かって3本の川が流れ込む流域に広いエリアが生まれ、この沖積土を選んでブドウ畑が集中している。2つの有力なブドウ栽培地区(ギムレット・グラヴェルズ・ディストリクトとブリッジ・パ・トライアングル)がある。
マールボロ (南島) / Marlborough (South Island)
当地のブドウ栽培面積はニュージーランド全体の約7割を占め、二位のホークス・ベイを大きく引き離している。このうちソーヴィニヨン・ブランが栽培面積の8割を占め、同国のワイン産業の屋台骨を支えている。南東の東端に位置しており、北島はクック海峡に面し、北側のリッチモンド・レンジが悪天候を遮り、南側のウイザー・ヒルズが太平洋からの強風など厳しい天候から守っている。
マールボロはワイナラ・ヴァレー 、サザン・ヴァレー、アワテレ・ヴァレーの3つのサブリージョンから構成されている。夏場(1月)の最高気温は27℃、最低気温は13℃、年間降雨量は652mmと乾燥している。
ソーヴィニヨン・ブランはパッションフルーツやグアバなどトロピカルフルーツの香味に、清涼感のあるカットグラス(青草)やハーベイシャス(ハーブのよう)な香りが特徴。近年はよりフルーツの熟度を重視するようになり、過度のカットグラスやハーベイシャスの香りは敬遠されるようになっている。
成熟が早いワイナラ・ヴァレーは果実の凝縮性とボディの強さが特徴とされ、サザン・ヴァレーは粘性とフルーツの柔らかさ、アワテレ・ヴァレーは酸の豊かさ、というように、地域性の違いを打ち出している。マールボロにはフランス、オーストラリア、スイス、オランダ、日本など、海外から進出した生産者が多数存在する。
セントラル・オタゴ (南島) / Central Otago (South Island)
南緯45度に位置する世界最南端のワイン産地の一つで、最寄りの大きな街はクリーンズタウン。ニュージーランドの中で唯一半大陸性気候の産地で昼夜の寒暖差が非常に激しい。サザン・アルプスの影響で西からの悪天候は遮られている。降雨は冬場に限られ、夏場はほとんど雨が降らず年間を通して乾燥している。
栽培面積は国内で3番目に大きく、最大品種はピノ・ノワールで約7割を占める。セントラル・オタゴのピノ・ノワールを世界的に有名ならしめたのは “フェルトン・ロード / Felton Road” のデビュー。
エリアは7つのサブリージョンに分かれており、土壌や気候の違いを活かしたワインが造られている。土壌は有機物が乏しく、ブドウ栽培を長期に持続されるためには、有機栽培を取り入れる必要がある。オタゴのワイン生産者がは早くから有機栽培やビオディナミを導入しているのはこのような事情による。
食文化 / Food Culture

移民国家 / Immigrants Country
移民国家であることから、多様な食文化が見られる。英国の影響を受けたポテト料理 “フィッシュ&チップス”、羊・牛肉のバーベキューをはじめ、イタリア、タイ、マレー、中華、韓国、和食(寿司)など、様々な食文化が花開いている。先住民マオリ族の料理やポリネシア料理などの伝統食も現代的なアレンジを加えながら存在。オークランドやウェリントンにおけるレストランの流行はシドニーやメルボルンとシンクロしていると言われる。
各家庭の庭にはバーベキューの器具が整っており週末の夕食によく楽しまれている。
また、新鮮な魚介類が豊富で、ムール貝や牡蠣の養殖が盛ん。ワインはこれら日常の食事を楽しむのによく溶け込んでおり、主要な酒類として重要な役割を果たしている。なお、大量のソーヴィニヨン・ブランをオーストラリアに輸出しているのとは反対に、豊かな果実味と骨格をもつボルドー系品種やシラーズなどの赤ワインが人気だ。

